執事ちゃんの恋
第4話
第4話
「本当に……これでいいのでしょうか、ヒヨリ様」
使用人頭であるヨネが、鏡越しに訴えてくる。
すでにスーツ姿になったヒヨリの髪をひと房持ち、はさみを翳しながらもいまだに切ることが出来ずにいた。
そんなヨネを見て、ヒヨリは苦笑いをした。
「いいの。これからはヒナタの代わりとして男にならなくちゃいけないのに、こんなに長い髪は邪魔でしょ?」
「そうでございますけどね、ヒヨリ様」
「髪切れば、ヒナタにそっくりだと思うの。もともと私とヒナタは背格好も顔のつくりもそっくりの双子だし。女の割には、私の声は低いから絶対にバレないわ」
自信ある、とヒヨリがポンと胸を叩くのだが、ヨネは今すぐにでも泣き出してしまいそうだ。
「髪は女の命とも申しますのよ?」
「そりゃそうかもしれなけど、今どき時代錯誤よ。ほら芸能界だってショートヘアの美人女優さんとかいっぱいいるじゃない」
「それは、それは。これは、これでございます」
「なんつー、言い草よ」
苦笑を通り越してあきれかえるヒヨリに、ヨネは睨みつける。
「あのですね、ヒヨリ様。このヨネ、いつかご立派な殿方に嫁ぐ日まで女性としての心得や作法をヒヨリ様に伝授させていただこうと必死で頑張ってまいりました」
「あー、はい」
「やっとどこにだしても恥ずかしくない淑女にお育てあげたと思った矢先、なんですか、男になるとは!」
「べ、別になるわけじゃないわよ。ヒナタの代わりに執事になるだけで……」
一緒でございます、とピシャリと厳しい声でヒヨリを窘める。
ヨネは、ついにはさみを机に置きエプロンで目尻に溜まった涙を拭きだしてしまった。