執事ちゃんの恋
「断れるわけがないでしょう。ずっと放浪していたヒヨリが、パーティーに姿を現した。となれば、まだ日本にいる可能性も高いし、もしどこかにフラリと出かけてしまったとしても、霧島が連絡を取れる可能性は今までより高いと思ったのでしょうね」
「……」
「栄西さまは、今ならと思ったのでしょう」
そうなのだろうな、と電話口の宗徳もため息を零す。
「どちらにしても、いずれは縁談を受けなくてはならない」
「……」
「それは、ヒヨリもわかっていたことだな?」
わかっていたことだし、わかっていることだ。
しかし、潔くうなづくことができない。
ためらっているヒヨリに、宗徳は言葉を強める。
「霧島の長女はいずれ婿養子を取る。それはわかっていたことだな」
宗徳の口調は厳しい。
ヒヨリは、あきらめた気持ちを抱きながら「……はい」と返事をした。
それを聞いて安心したのだろう。
宗徳は、少しだけ口調を和らげた。
「うちには男子はヒナタしかいない。もう一人男子がいれば、ヒヨリをもう少し自由にできたが……」
その言葉に、娘に対しての愛情と労りを感じ、ヒヨリは鼻の奥がツンとした。
「ヒヨリには、これから霧島を盛り立ててもらわなければならない。婿に入った男とともに、霧島の繁栄に力を注いでもらわなければならない」
「はい……」
「霧島家の発展、しいては文月家の発展にも繋がる」
わかっているな、と釘をさされヒヨリは無言でうなだれた。
宗徳の言う通りだ。
ヒヨリは霧島本家の長女。霧島の家を守っていかねばならない立場だ。
それは生まれる前から決まっていたことだ。
ヒヨリもずっと言い聞かせられてきたこと。
だが、とヒヨリは横一文字に唇を引いた。