執事ちゃんの恋
それにしても、とヒヨリは小首を傾げた。
村岡家から推薦を受けたという男とはいったいどういった人物なのだろうか。
いくら栄西が村岡を信頼していたとしても、彼自身もきっと相手の男のことを調べただろう。
むやみやたらに霧島本家を継ぐ男を迎え入れるとは考え難いからだ。
栄西のお目がねにも適った人物。それはどのような男なのだろうか。
「お父様。相手の……縁談の相手はどのような人なんですか?」
ヒヨリが栄西と村岡が勧めてきたという人物に疑問を持って宗徳に聞いたのだが、どうも歯切れが悪い。
どうしたことかとヒヨリが眉を顰めていると、ようやく答えらしい言葉が聞けた。
「私もわからないんだ……」
「は?」
不信感をあらわにしてヒヨリが叫ぶと、宗徳も唸った。
「栄西さまがいうには、なかなかに立派な男らしい。だが、何度聞いても名前を明かしてくれなかった」
「明かしてくれなかったって……」
そんなバカな話があるかと、ヒヨリが呆れていると宗徳も苦笑した。
「なんでもヒヨリにとっては縁のある人物で、ヒヨリも必ず気に入るはずだと。そうまで言われては私も聞けなかった」
「……聞いてよ」
脱力して投げやりな言葉を投げるヒヨリに、宗徳はのんきなものだ。
「栄西さまが勧めている人物だ。悪いことにはならないだろう」
「……」
この言葉を聞いて、自分の父親もすっかり村岡美沙子の策に溺れてしまったのだと、ヒヨリは小さく息を吐き出すしかできなかった。