執事ちゃんの恋
第30話
第30話
「はぁぁ……」
ヒヨリは宗徳からの電話を切ったあと、大きく息を吐き出した。
なんだかとんでもないことになってきた、とヒヨリはガックリと肩を落とす。
宗徳との会話でわかったことは、つい先日行われた文月家のパーティーでの出来事は宗徳は何も知らないということ。
そして、ヒナタは日本にいて、それも文月家に潜入しているということさえも知らない様子だった。
宗徳は電話口でかなり慌てていた。
「ヒナタが戻ってきていないというのに、栄西さまがヒヨリに縁談を持ってくるとは……。まさか、ヒヨリが身代わりとして執事をしていることがばれたとか!?」
栄西から持ち込まれた縁談だから受けないわけにはいかないし、霧島を盛りたてるため、文月家のために縁談を受けなければならない。
そうヒヨリに懇々と悟っていた人物が、我に返ったように慌てるさま。
ヒヨリは、そんな宗徳の様子を電話越しに感じ、脱力してしまった。
「栄西さまは何もかも気がついていらしたのかもしれない。だから、今ここでヒヨリに縁談を……」
ヒヨリはもう苦笑するしかなかった。あまりの慌てぶりに口を挟むのも困難なぐらいだ。そんなヒヨリの心情など知らず、宗徳はひとりでたくし上げていく。
そして、挙句の果てにひとり完結をして電話を切られていまった。
口を挟む暇もなかった。ヒヨリは、テンパってしまっている自分の父親を思い出し、ガックリと肩を落とす。
「ヒナタに相談してからにしよう」
すぐに宗徳に電話をして、ヒナタが日本、それも文月家の清掃スタッフとして潜入していると教えてあげたほうがいいとは思ったが、まずはヒナタにこのとんでもない状況を説明する必要があるだろう。
携帯をスーツの内ポケットに仕舞いこみ、屋敷の中へと入っていく。
プライベートでは悩みも山積み状態だが、仕事はいつもどおりにある。
自分の主であるコウは今、学校に行ったばかりだが、屋敷の中にはやらなくてはならないことは山のようにある。
まずはそれを片付けてから、いろいろと悩もう。
正直に言うと、片時も縁談のことが頭から離れないが、仕事をしなければ。
ヒヨリは、気を引き締めて、まずは机上にある書類に目を通し始めた。