執事ちゃんの恋
「……健せんせの好きな人ってどんな人なのかな?」
本人に聞くのが一番早いだろう。
健なら、こっそりとヒヨリに教えてくれるかもしれない。
健のおもちゃであるヒヨリなら……。
―ー― だって、私なんて健せんせの恋愛事情には関係ないんだし。
口に出して言いたくなったが、それをグッと抑えた。
言ってしまったが最後、これが言霊となり現実になってしまうのが怖かった。
ソファーでのたうちまわったあと、ヒヨリは絶望感を滲ませた表情で呟いた。
「やっぱり今回の縁談のことは健せんせには内緒にしておこう」
なんだかあれこれ考えすぎてしまい疲れてしまった。
それがヒヨリの率直な感想だった。
自分の気持ちだけが空回りする現実。
その上、好きな人はほかの女性に視線を向けている。
それがわかってしまった以上、健のおもちゃである自分は潔く離れていくのがいいに決まっている。
―ー― でも。
ヒヨリはゴロンと唸りながら寝返りをうつ。
頭ではわかっている。だけど、心がついていかない。
どこかでまだ期待しているのが自分でもわかる。
健が見ているのは、想っているのは自分なんじゃないか、と。
これはもう願望に近いかもしれない。
ヒヨリは、自虐的に笑うしかできなかった。
あれこれ考えてソファーでゴロゴロしていたヒヨリのもとに、メールが届いた。
小さな光と振動で携帯が震える。
その携帯を手にとることさえも今は億劫でしかたがない。
それに今の今ではこのメールの内容はきっといいものではないと直感が知らせている。
小さく息を吐き出したあと、ヒヨリは手を伸ばしてテーブルに置き去りにしてあった携帯を手に取った。