執事ちゃんの恋
「ちょ、ちょっと……ヨネってば」
「心配でございます。ヒヨリ様を文月家に行かせるだなんて、私は断固反対でございます」
「ヨ、ヨネ……」
「ヒヨリ様もそうですが、旦那様も馬鹿ですわ」
「バ、馬鹿って……一応、霧島家の当主だけど?」
「馬鹿は、馬鹿です。私、ヨネからみたら宗徳さまも私がお育てしたのも同然。となれば、私の子供みたいなものですから」
「さ、さようでございますね……」
左様でございますよ、と皺だらけの顔で凛とした笑みを浮かべるヨネは、鏡越しに視線が合うと大きく息を吐き出した。
「文月家のご当主に本当のことをお話になって、ヒナタ様ではなくほかの霧島家縁のものに代役をさせるということにすればよいものを……」
「そうもいかないわよ、ヨネ。なんて言ったってヒナタが執事としてお仕えすることになる予定のお嬢様は、文月家本家のご令嬢よ?」
「……そうでございますが」
「ヒナタが失踪しましたから、ほかの者が代理としてお嬢様の執事をします。そんなこと言って通ると思う?」
後ろにいるヨネを振り返り、チラリと上目遣いで見つめると、ヨネは小さな背中の曲がった身体をより一層小さく縮めた。
「こうなったら隠し通すしかないでしょ? それにはヒナタと容姿がそっくりの私が行くのが妥当」
「しかし!」
「私だってイギリスでヒナタと一緒に学んできたんだから大丈夫」
「……そうでございますが」
「格闘系のほうだって、ヒナタよりは腕がいいし、どちらかというと男らしいのは私のほうじゃない?」
「そうでございますね」
「そこは即答かい」
深く頷いて納得するヨネに苦笑したあと、それでもまだはさみを握らないヨネに痺れを切らした私は自らはさみを持つ。
「ヒ、ヒヨリさま!?」
「ああ、もう! ごちゃごちゃと煩い! えいっ」
あぁ! という悲鳴に近いヨネの声を聞きながら、バサバサと髪を下ろしていく。
肩先までザックリと切ったあと、ヨネにはさみを手渡した。