執事ちゃんの恋
メールを開けば、やはり予感的中だった。
ヒヨリの父である宗徳からで、すでに決まってしまった縁談の日時を知らせる簡潔な内容のメールだった。
「……ってか、これってば急すぎない?」
指定された日付はなんと明日だ。
メールの最後には、明日ヨネがこちらに来て準備を手伝ってくれるという旨が書かれてあるだけで、あとはなにも書かれていなかった。
要するに、つべこべ言わず縁談に行きなさい。そう言いたいのだろう。
あれだけ難色を示していれば、さすがに父も警戒したのだろう。
逃げられないように日にちを早めた。それが宗徳の策なのだろう。
ヒヨリは再び深くため息を零した。
これはもう逃げる余地もないということなんだろう。
そして、健に相談することもかなわないということを意味している。
宗徳からのメールは日時と時間のみ。あとはヨネが支度を手伝ってくれることだけしかわからない。
行先は、迎えの車がくるまでわからない。
もうあとには引けない。崖っぷち。
ヒヨリは、半ばあきらめモードで携帯を再びテーブルに放り投げた。
そのあとのことはあまり覚えてない。
悩みすぎて寝れないかと思ったのだが、体は睡眠を欲していたらしい。
そのままの姿でソファーで眠りこけてしまったようだ。
翌日乙女部屋に来た、霧島家使用人頭のヨネに叩き起こされて、やっと目を覚ました。
ヨネに促され、寝ぼけ眼でシャワーを浴び、浴室からでてきたヒヨリを待っていましたとばかりにヨネはヒヨリに着物を着つけていく。
自分ひとりで着付けができるヒヨリだが、今日ばかりはヨネに任せようと丸腰で立つ。
そんなヒヨリの気持ちを知ってか、ヨネは黙々と作業をこなしていく。