執事ちゃんの恋
「ヒヨリさまなら、きっと幸せになれます」
「ヨネ……」
「大丈夫でございますよ」
そう優し気に微笑むヨネを見て、ますます涙を零すヒヨリ。
本当は逃げ出したい。そう願う気持ちを抱くヒヨリだが、そういうわけにはいかない。
そして目の前のヨネも、ヒヨリの気持ちがわかるが、どうにもならない現実にただただ口を閉ざすだけだ。
ピンポーンと、チャイムの音がした。
きっと迎えのものが到着したのだろう。
ヒヨリは深く息を吐き出したあと、うなじから少しだけ零れ落ちてしまった髪を結いあげた。
「いってくるわ」
「いってらっしゃいませ、ヒヨリさま」
深く頭を下げるヨネに背を向け、ヒヨリは乙女部屋をあとにした。