執事ちゃんの恋
ヒヨリは懐かしさも感じていたが、同時に疑問も一緒に感じていた。
どうして縁談の席に詠二がいるのだろうか。
この場所にいるということは、間違いなくヒヨリのお見合い相手だ。
と、いうことは同時に文月家の当主がヒヨリにと決めた相手ということになる。
意外すぎる相手に、ヒヨリはなにがなんだかわからずただただ目の前の詠二の顔を見つめるだけしかできなかった。
「どうしてこの場に俺がいるんだ、そんな顔しているな」
「だ、だって……」
「文月家から頼まれたっていうのもあったんだが……相手がヒヨリだと聞いて縁談を受けることにした」
「私だと知って……?」
ますます訳が分からないという様子のヒヨリを見て、詠二はクスッと軽やかに笑う。
「お前んちが特殊だってことも俺は知っているし、お前も俺なら気心がしれているだろう」
「そ、それは……」
口ごもるヒヨリに、詠二は笑みを深くする。
だがヒヨリに見せる視線は真剣そのものだ。
それを感じて、ヒヨリはゴクリと唾をのみこむ。
背筋を伸ばすヒヨリに、詠二は確信めいたように言い切る。
「たぶん俺がこの縁談を断れば、次は違う家に話しがいくことはわかっている。なら、俺にしておけばヒヨリだって安心だろう」
「でも、それじゃあ私のために?」
「そう。だけど、それは少し。本当は自分の欲望が半分以上」
「え?」
一体、それはどういう意味だろうか。
ヒヨリが首を傾げると、詠二はまっすぐと嘘偽りないといった様子で口を開いた。
「ヒヨリのことが可愛くてしかたがないといったら……お前はどうする?」
「っ!」
そんな返答がくるとは思っていなかったヒヨリは、突然浴びせられたカンターパンチに目を大きく見開く。
「お前が健くんのことを好きだってのは知っている。小さいころからずっと言っていたものな」
「詠二先生」
「健くんが大丈夫なら、俺の年だってさほど変わらないから大丈夫だろう? おじさんはイヤだとは言わせないぞ」
「っ!」
詠二は昔から冗談は嫌いな人だった。
それは今もそうだろう。目の前で爆弾発言をする詠二の表情は真剣そのものだから。
ヒヨリは突然の告白に、どうしたらいいのかわからず途方に暮れた。