執事ちゃんの恋
第33話
第33話
「つ、つ、疲れたぁ……」
玄関先に草履を脱ぎ捨て、そのまま廊下に着物のまま寝そべった。
大事な着物を着ているのだから、早く脱いでおかねばならないのに。
今のヒヨリは精神的にも、肉体的にも極限まで疲労が溜まってしまっている。
「皺になっちゃうよぉ……」
誰もいないマンションの玄関で、ひとり呟くが体がどうしても動かない。
こうしてマンションに戻ってきて玄関で伸びているが、中から人が動くような気配は感じない。
ということは、すでにヨネは帰ってしまったということだ。
状況をすべて知っているヨネにあれこれと相談したかったのだが、いないのならしかたがない。
こんなところで寝そべっていても誰も救助してはくれない。
ヒヨリは諦めを感じながら、ヨロヨロと立ち上がる。
「とにかくお風呂入ろう。汗でベタベタする」
今日は冷や汗やら、なにやらで汗をかいた。
一刻も早く着物を脱ぎ捨てて、シャワーを浴びたい。
そして今日あった出来事などは、水とともに洗い流してしまいたい。
実際問題、緊迫した現状だ。
シャワーごときで流せるものでもない。
だが、今のヒヨリはとにかく現実逃避をしたかった。
行儀が悪いことは承知の上で、廊下を歩きながら帯を緩めていく。
リビングに入り、ソファーに取った帯をかける。
そして着物を脱ぎ捨てようとした、その時だった。
キッチンから紅茶を手にした健が出てきたのだ。