執事ちゃんの恋





 お互い無言で、視線を絡ませる。

 たっぷり時間をおいたあと、初めに口を開いたのは健のほうだった。
 ギロリと厳しい視線でヒヨリを頭のてっぺんからつま先まで、じっくりとゆっくりと眺める。
 そのあと意味深にほほ笑んだ。

 その笑みがあまりに背筋が凍りそうなほど冷たくて、ヒヨリは震えあがった。


「やあ、お帰り。ヒヨリ。どこで油を売っていたのかな? それも、そんなキレイな振袖を着て」

「……」

「たしかその着物は人間国宝の職人が作ったものだったかな。霧島家の家宝で、大事なときにしか出さないことで有名な振袖だね」


 それは初耳だった。

 たしかにこの着物はかなりいいものだろうとは思っていた。
 だが、そんな大事なものだったなんて……。
 ヒヨリは唖然として自分が着ている着物を見つめた。

 が、今は、それどころではない。
 チラリと健に視線を向ける。

 健の口調は優しげだ。

 しかし、どこか棘を感じる。その上、瞳が笑っていない。
 表面上は穏やか、しかし内面は……恐ろしいほどの怒りを感じる。
 ヒヨリは、着物の衿をギュッと掴んだ。


「えっと……その」

「なんですか? 聞こえませんよ?」


 かなりご立腹の健を見て、ヒヨリは意味のない言葉しかでてこない。

 いつまでたっても何も話しださないヒヨリに痺れを切らしたのか。
 健はテーブルにもっていた紅茶のカップを置き、ヒヨリのすぐ傍にあるソファーに勢いよく座る。
 そしてすぐ横をポンポンと叩く。

 ここに座れ、健の命令のような仕草に、ヒヨリは震えあがりながら渋々と座った。

 が、人ひとりぶん空けて座ったヒヨリを見て、健は眉を顰める。
 どうやらヒヨリが座った場所が気に入らなかったらしい。
 健は機嫌悪そうに、距離をつめ、ヒヨリの真横に座る。

 太ももと太ももが触れ合う距離に近づいてしまった。ヒヨリはビクッと体を震わせた。







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