執事ちゃんの恋
「さぁて、なにが起きたのか。全部話してくれるよね?」
「や、やだ……」
絶対に聞き出すという意気込みを感じる健の言葉に、ヒヨリは拒絶の言葉をすぐさま口にした。
が、そんなヒヨリの態度が気に入らない健は、眉間の皺をより深いものにする。
「ヒヨリ」
小さな子を諭すように、健は横からヒヨリの顔を覗き込む。
だが、その視線から逃げるようにヒヨリは顔を背ける。
どうしても今日の見合いの件は健に知られたくない。
だからこそ、健に内緒にして見合いに挑んだのだから。
しかし、ジリジリと追い詰められていく現状に、ヒヨリはすでに白旗をパタパタと振りたい心境だ。
「早く吐いておしまいなさい」
「た、健せんせ……」
びくびくと震えながら、なんとか健のほうを見るが、そこには黒い笑みを浮かべて静かにヒヨリだけを見つめている健がいた。
「鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス、だったかな?」
「え?」
突然、健が突拍子もないことを言い出したものだからヒヨリは驚いて声をあげた。
健はヒヨリの表情を見て、ほくそ笑んだ。
「豊臣秀吉だったよね、ふふふ」
健が突然言い出した言葉の意味をなんとなく感じとったヒヨリは、顔をひくつかせた。
まだ織田信長バージョンじゃなかったことを喜ぶべきか。
いやいや、秀吉バージョンも似たようなものかもしれない。
どちらにしてもとんでもなく状況はヒヨリにとって悪いものだ。
あの、と小さく蚊が鳴くような声で恐るおそる抵抗する。
「健せんせ、い、い、家康バージョンでお願いしたいです」
「ん?」
「鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス、で」
懇願に近い気持ちでそう言うヒヨリに、健はますます笑みを深めた。
もちろん爽やかさとはかけ離れた、その黒い笑みにますますヒヨリは委縮してしまう。
小さく縮こまるヒヨリに、健は盛大にため息をついた。
「あのね、ヒヨリ。私はそんなに気が長いほうじゃないんだよ」
「せ、せんせ?」
ジリジリと距離をより密接させようと近づく健に、ヒヨリもジリジリと逃げるが、もうあとがない。
追い詰められたヒヨリは、意味深に笑う健に覆いかぶさられた。