執事ちゃんの恋
「はい、ここからはヨネがやってよ」
「……キレイな髪でしたのにね」
落胆の色が隠せないヨネは、重くため息をついた。
鏡の中の自分をみると、自分ではないようだ。
こんなに短い髪になるのは、いつぶりだろうか。
ずっと伸ばしていた腰まであった髪。今は、なんだか頭が軽くなり、清清しい気持ちだ。
心機一転、やっていくしかないのだから。
ヨネはようやく観念したのか、はさみを持ち、ヒナタと同じようにさっぱりとしたショートに髪を整えていく。
さすがは、ヨネだ。
「何事にもオールマイティ。広く浅くなんて以ての外! 広く深く、これがヨネのモットーでございます」
と言い切るだけあって、ヨネに任せておけば大抵のことはなんなくこなしてしまう。
御年80歳だというヨネだが、矍鑠としていて霧島家にはいなくてはならない人物だ。
「こうして見ると、ヒナタ様がいらっしゃるようですね……」
ずっと幼い頃から霧島家の双子を見続けていたヨネが感心するほど、鏡に映る姿はヒナタそのものだった。
――― これならいける。
ヒヨリは自画自賛をして、鏡の中の自分を見つめた。
ふと、後ろにいるヨネの複雑そうな表情を見つけて、ヒヨリは首を傾げた。
「どうしたの? ヨネ」
「……」
黙ったまま悲しそうに鏡の中のヒヨリを見つめるヨネを見て、胸が痛んだ。
「ヒヨリ様」
「ヨネ?」
「本当にこれでよろしいのでしょうか?」
「……」
「やっと好きな人と結ばれたのでしょう?」
「っ!」