執事ちゃんの恋
第34話
第34話
あれから数日がたった。
あっという間だったような、なかなか時が進まなかったような。
ヒヨリは気持ちをどこに持っていったらいいのかわからず、あの縁談の席以降、上の空だ。
表面上は取り繕っている自信がある。
しかし、気を抜けばすぐにいろいろと考え込んでしまう。
課せられた運命、そして健とのこと。
あの日、乙女部屋から出ていったあとから健とは会ってはいない。
健から連絡もまったくない。
もちろん、こちらから健に連絡なんてできない。できるはずがない。
電話をかけて……、そして?
そのあと、健になんといえばいいのだろうか。
家の命令で、それも主である文月家ご当主からの直々の紹介で縁談を受ける運びになりました。
ヒヨリは、結婚をします。
生まれたときから決まっているように、家の方針に従う所存です。
そんなことを言うために、健に電話をするのか。
そんなことを言うために、健と会おうとするのか。
答えは否だ。
そんなことを言うために、健と会うことなんてできない。
じゃあ縁談の前に、すべて健に話していればこの事態を免れたのだろうか。
それも否だろう。
健はたしかに文月家当主の弟だ。
だが、やはりこの家での絶対権力は当主の栄西だ。
健がなんと言おうと、栄西が決めたことを覆すことはできない。