執事ちゃんの恋





「やっぱりね」


 ソファーに背を預けて、ふんぞり返る形でギロリとヒヨリに視線を向けたあと、再び大きくため息をついた。

 突然どうしたというのだろうか。
 ヒヨリは、なんともいえない胸騒ぎを覚えながらコウを見つめた。


「今、私の目の前にいるのは、霧島ヒナタじゃないわね」

「っ!」


 ジッとまっすぐにヒヨリを見つめ、視線がぶれない。
 隠し事はなしよ、とばかりに厳しい視線を向けてくるコウに対して、今のヒヨリは反論できないでいた。

 いつものヒヨリなら、そつなくこなす場面だろう。
 しかし、今のヒヨリはコウのその反撃さえも、かわすことができないほどにダメージを受けている。
 言い訳が思いつかない。コウのまっすぐな視線に勝てる気がしない。
 ヒヨリは、背中に嫌な汗を感じた。

 なにも言い返せないヒヨリを見て、コウは確信めいたようにヒヨリを抗議する。


「あなた、霧島ヒヨリよね? 一体、これはどういうことなのかしら?」

「コウさま……」



 なんと返せばいいのかわからず佇んだままのヒヨリに、コウはギロリと視線を強めた。


「私には説明してくれるわよね?」

「申し訳ありません」


 持っていたポットをテーブルに置き、ヒヨリはコウに深く頭を下げた。


「謝るってことは、私が言ったことは本当だと認めるということよね?

「……はい」


 項垂れるように小さく頷くヒヨリに、コウは自分の目の前のソファーを指さした。


「とにかく座りなさいよ」

「コウさま」

「立ち話じゃおさまらない話なんでしょ?」


 ――― この人は……。


 ヒヨリは目の前のコウを見て、渋々とソファーに座った。
 高校生だと思ってなめてかかったら痛い目に合う。
 初めてコウに会ったときに直感で感じたことだ。

 日ごろは、年相応の高校生らしいコウ。
 いや、いまどきの高校生に比べたら、少しばかり子供で純粋かもしれない。
 しかし、やっぱり生粋のお嬢様だ。

 時折ひどく大人びて見えるし、核心を見抜く力が秀でている。
 そんな気がする。
 ヒヨリは、目の前のコウをまっすぐ見つめることができなくて俯いた。








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