執事ちゃんの恋
「あのね、ヒヨリ。あなたは完璧な執事だったわ」
突然の賞賛の言葉に、ヒヨリは目を丸くして顔をあげる。
驚いてコウの顔を見つめるヒヨリに、コウはクスクスと苦笑した。
「間違いなく男で、霧島ヒナタだと思っていた」
「コウ……さま」
「あのパーティーで、ヒナタとヒヨリを見たあとも、今のヒヨリがヒナタだと疑わなかったわ」
「では、なぜ!?」
思わず声を荒げたヒヨリに、コウは意味深に笑った。
「それは、私に聞かなくたってヒヨリなら理由を知っているはずよ?」
「っ!」
それ以上は言わず、コウはゆったりと紅茶を飲む。
その様子を見て、ヒヨリは大きくため息をついた。
やっぱりここ数日の自分の心の動揺は、コウにも伝わっていた。そういうことなのだろう。
答えを導き出したような顔のヒヨリを見て、コウは呆れたようにヒヨリを指さした。
「ここのところのヒヨリは恋する女の子の顔なんだもんな」
「……恋する女の子」
「間違ってないでしょ? 私の推理は」
胸を張って自信満々のコウに、ヒヨリは困ったように苦笑した。
「……さすがはコウさま。なんでもお見通しですね」
「フン。一応これでも文月家の長女ですからね」
ツンとすまして紅茶を飲むコウは、とても愛らしくて。思わずヒヨリは、「ゴスロリをぜひとも着せたい!」といつもの調子で思ってしまった。
が、今はそんなことを考えている余裕などない。
ヒヨリは、背筋を伸ばしてコウの次の言葉を待つ。
「さぁ、こうして主である私がすべてを知ってしまった以上、ヒヨリが次にすることはわかっているわね」
「……はい」
コクリと頷くヒヨリに、コウは興味があるという表情を浮かべた。
「なぜ、女のヒヨリが男のヒナタの代わりに執事になったのか。そしてこの文月家に来たのか」
「……」
「全部、話してくれるわよね? ヒヨリ」
「コウさま……」
ヒヨリは覚悟を決め、コウに今までのことをすべて話したのだった。