執事ちゃんの恋
第35話
第35話
「で、ヒヨリはこれからどうするつもり?」
「え?」
どうしてヒナタの代わりにコウの執事になろうとしたのか、その理由をすべて話し終えるとコウはまっすぐな瞳をヒヨリに向けた。
今までは静かにヒヨリの声に耳を傾けいたコウだったが、どこか引っ掛かりを感じたのだろう。
疑問符を浮かべた表情をしてヒヨリに本心をぶつけた。
一方のヒヨリはというと、あまりにストレートな気持ちを投げかけられて一瞬言葉を失う。
たじろぐヒヨリに、コウは紅茶を一口飲んだあと、ティーカップを持ちながらチラリと視線をヒヨリに向けた。
「こうして主人である私にすべてがばれてしまった。その上、お父様経由でヒヨリに縁談がきているわよね」
「はい」
どうやらヒヨリ自身に縁談が来ているということは、コウの耳にも入っているらしい。
そうとなれば、これはもう逃げれる段階にはないということだ。
ヒヨリは、そんなところにも絶望を感じて、心の中でこっそりとため息を漏らす。
「お父様がヒヨリに縁談を勧めたとなれば、断れないわね」
「……そうでございますね」
諦めにも似た笑みで静かに頷くヒヨリを見て、コウは眉間に皺を寄せる。
トントンとテーブルを小刻みに叩きながら、イラつく気持ちを隠すことなくヒヨリにぶつけた。
「そうじゃないでしょ!? いいの? ヒヨリは好きでもない男と結婚することになるのよ?」
確かにコウの言う通りだ。
このまま何もしなければ、自分が想っている人とは永遠に結ばれることはない。
だが、それが生まれたときからの宿命だといわれてしまえば、それまでなのだ。
ヒヨリは霧島の家で、生まれたときからずっとそう言い聞かされて生きてきた。
残念ながら〝霧島ヒヨリ”である限り、霧島という家がついてまわるし、主である文月家もついてまわることになる。
目の前のコウは、ヒヨリを心配して声を荒げている。
その気持ちがうれしかった。
ヒヨリは、今度は凛とした表情を浮かべた。