執事ちゃんの恋
「お父様は、健くんと美紗子ちゃんを結婚させようとしているわよ」
「え?」
ハッと顔をあげるヒヨリに、コウは腰に手を当ててヒヨリに厳しい視線を向けて、容赦なく言い放つ。
「だって元々は婚約までしていた者同士だもの。不思議ではないわ」
「……そうで、ございますね」
揺れる心。痛む心。
それをすべて隠し、感情を抑え込んで執事ヒナタのように振る舞うヒヨリに、コウは地団太を踏んだ。
「あーもう! そうじゃないでしょ!? ヒヨリはこのままでいいの?」
「え?」
「失恋したとしても、どうなったとしても。まずは本人にぶつからなきゃ。気持ちを昇華させることなんてできないわ!」
「コウさま」
揺れる瞳を見せても、声は感情を押し殺している。
ヒヨリのその振る舞いに、コウは悲しそうに、辛そうに唇を強く噛んだ。
感情を表に出すことができないヒヨリのために、コウは瞳を滲ませる。
「そんなウジウジしているヒヨリなんて、私が好きだった〝執事 霧島ヒナタ"じゃないわ」
「……」
感情をあらわにしてヒヨリに訴えるコウだったが、一方のヒヨリは視線を逸らし口を閉ざしたままだ。
そんな煮え切らない態度に怒りを見せたコウは、ヒヨリに指を指して叫んだ。
「ヒヨリ、今日限りでここをやめなさい」
「っ!」
驚いた表情を浮かべたまま、なにも言えないヒヨリにコウはツンと澄まして宣言した。