執事ちゃんの恋
――― 悩むの疲れた……。
それがヒヨリの本心だ。
だからこそ、悩むことを放棄した。このまま流れに任せてみるのもいいだろう、と。
どうせ、ヒヨリがどれだけ悩んだとしても、拒んだとしても……同じ未来が来るのだ。
それなら、流れに逆らわず流れに乗るのもいいだろう。
健との未来がないのなら、どんな未来もいらない。
どんな未来でも全部一緒。
コピーしたみたいな日常を送るのだから……。
昨日の夜、ヨネが心配をしてヒヨリに電話をかけてきた。内容はもちろん詠二との結納の件だ。
『本当によろしいのですか? ヒヨリさま』
『いいも悪いも……もう決まってしまったことよ?』
『そうでございますが……』
『文月家も動いている以上、霧島が、私がどうすることもできないことぐらいヨネなら知っているはずでしょ?』
『では……ご覚悟は出来た、そういうことですか?』
『きっと……詠二先生とだったら幸せになれると思うから……だからヨネ、そんなに心配しないで』
なにか言いたげにしていたヨネだったが、そう自分に言い聞かせるように言ったあと、すぐに電話を切った。
これ以上話していたら、ヨネに泣き言を言ってしまう自分がいることに気がついたからだ。
「前進あるのみ。前を見るしかないんだから」
自分に活をいれるように呟くと、キュッと着物の襟元を指で掴み正す。