執事ちゃんの恋
もう一度、詠二の本心を覗きたくてチラリと視線を向けたヒヨリだったが、詠二の言葉によって返り討ちにされた。
「ヒヨリが逃げ出さず、今日ここに来てくれて俺はうれしいよ」
「詠二先生」
「覚悟してきてくれたんだろう?」
「えっと……」
言葉を濁すヒヨリに、それ以上は何も言うなとばかりににっこりとほほ笑んだ。
「ありがとう。うれしいよ、ヒヨリ」
「詠二……先生」
口調は優しい。しかし、その言葉の端々に感じるものは威圧感かもしれない。
ヒヨリの気持ちは全部わかっている。だが、もう逃げることなど許さない。
そんな確固たる気持ちが含められているということに、ヒヨリは気がついていた。
だからこそ、もう逃げられないのだなぁとどこか他人事のように茫然と思った。
正気がない、そういわれてもしかたがないかもしれない。
ヒヨリはどこか映ろな目で、今から繰り広げられるであろう幸せの儀式を、ただただ眺めるだけ。
傍観者になったような気持ちで、ヒヨリはその場から動けなかった。
絶望的な気持ちで、栄西の進行を聞いていたときだった。
突然部屋の襖が開いた。部屋にいた人間たちが一斉にそちらに視線を走らせた。
そこには執事の格好をしたヒナタがひれ伏せていた。
「ヒ、ヒナタ!?」
自分の代わりにコウの執事をしだしたヒナタが、なぜかこの場所にいる。
驚いて目を大きく見開くヒヨリに、ヒナタは視線を向けた。
そして、そのあと栄西、詠二を見たあと、ヒナタはもう一度深く頭を下げた。
「結納の席に申し訳ありません。妹を、ヒヨリを少し貸していただきたい」
「ヒナタ!?」
栄西がいるこの場所で、そんなことを言うのはありえないことだ。ヒヨリが驚いてヒナタに近づくと、ヒナタはヒヨリの手を掴んだ。
強引なまでのヒナタの行動の数々に驚きが先行してしまって声がなかなかでてこない。
口をパクパクさせ、目を白黒させるヒヨリを見て、ヒナタはプッと小さく噴出したあと表情を引き締めた。
視線の先には、栄西がいて無表情でヒナタを見つめている。
その厳しい視線にも怖気ずくことなく、ヒナタはまっすぐと栄西を見つめた。