執事ちゃんの恋






「お叱りはあとで受けます」

「ちょ、ちょっと、ヒナタ!?」


 慌てるヒヨリに、ニンマリとこっそりと笑うヒナタ。
 そのあと視線は詠二のほうを向いた。


「詠二先生、申し訳ありません。妹はいただいていきます。いくぞ、ヒヨリ!」

「は!? ちょ、ちょっと、ヒナタってば!」


 無理やり店の外に連れ出されたヒヨリは、黒塗りの車の後部座席に押し込まれた。
 抵抗はしたのだが、やはり男の力には勝てない。
 まったくもって今の状況が汲み取れず、ヒヨリはあたふたと慌てるばかり。
 そうこうしているうちに、車は静かに走り出してしまった。
 チラリとバックミラーを見れば、そこには見慣れた人の顔が映し出されていた。
 思わす指を指してヒヨリは叫んだ。


「え!? さ、冴島さん? ってことは」

「そう、コウさまの車だ」

「な、なんで!?」


 ヒヨリは、すぐ隣に座ったヒナタの胸倉を掴んだ。
 いつもの勢いの良さが戻ってきたヒヨリを見て、ヒナタは心底嬉しそうだ。
 目じりを下げて、妹であるヒヨリにクスッと楽し気に笑った。


「お嬢様からの命令でね」

「え?」


 コウには、解雇命令が出されて以降会っていない。
 そのコウがヒナタになにを命令したのだろうか。
 ますます驚きを隠せないヒヨリを見て、ヒナタは茶目っ気いっぱいにウィンクをした。


「霧島ヒヨリを連れ出せ。結納をぶち壊せとの命令を受けたものでね」

「コウさまが?」


 唖然としたヒヨリに、ヒナタはマジメな顔をして頷いた。









< 176 / 203 >

この作品をシェア

pagetop