執事ちゃんの恋
「お叱りはあとで受けます」
「ちょ、ちょっと、ヒナタ!?」
慌てるヒヨリに、ニンマリとこっそりと笑うヒナタ。
そのあと視線は詠二のほうを向いた。
「詠二先生、申し訳ありません。妹はいただいていきます。いくぞ、ヒヨリ!」
「は!? ちょ、ちょっと、ヒナタってば!」
無理やり店の外に連れ出されたヒヨリは、黒塗りの車の後部座席に押し込まれた。
抵抗はしたのだが、やはり男の力には勝てない。
まったくもって今の状況が汲み取れず、ヒヨリはあたふたと慌てるばかり。
そうこうしているうちに、車は静かに走り出してしまった。
チラリとバックミラーを見れば、そこには見慣れた人の顔が映し出されていた。
思わす指を指してヒヨリは叫んだ。
「え!? さ、冴島さん? ってことは」
「そう、コウさまの車だ」
「な、なんで!?」
ヒヨリは、すぐ隣に座ったヒナタの胸倉を掴んだ。
いつもの勢いの良さが戻ってきたヒヨリを見て、ヒナタは心底嬉しそうだ。
目じりを下げて、妹であるヒヨリにクスッと楽し気に笑った。
「お嬢様からの命令でね」
「え?」
コウには、解雇命令が出されて以降会っていない。
そのコウがヒナタになにを命令したのだろうか。
ますます驚きを隠せないヒヨリを見て、ヒナタは茶目っ気いっぱいにウィンクをした。
「霧島ヒヨリを連れ出せ。結納をぶち壊せとの命令を受けたものでね」
「コウさまが?」
唖然としたヒヨリに、ヒナタはマジメな顔をして頷いた。