執事ちゃんの恋
「そう、今は解雇されたとしてもお前のお嬢様に代わりはないだろう?」
「もちろんよ!」
「それならお嬢様のたっての願い、聞けるよな?」
「え?」
どういう意味だろうかとヒヨリの顔に書いてある。
それを見て、ヒナタはどこか意味ありげにほほ笑んだ。
「健先生と村岡美紗子の縁談をぶち壊して来いってさ」
「……」
「村岡家は文月家を利用しようとしているし、村岡美紗子のほうは健先生に執着してる」
「え?」
驚きを隠さずヒナタを見つめたあと、思案顔で二人がいるであろう喫茶店の二階を見つめる。
腕を組んで考え込むヒヨリに、ヒナタも同じように考え込む仕草をした。
「村岡もうまいもんでさ、栄西さまをうまく丸め込んじまった。だけど、コウさまの命令で村岡家を探れば、出るわ出るわ悪事の数々。そんな家と文月家が縁を結ぶのは我慢ならない」
ヒナタがこう言っている以上、その内容は事実なんだろう。
きちんと証拠も見つけ出したに違いない。
ヒナタは自身が隠れたり逃げたりするのも得意だが、何かを探しだすということも得意中の得意だ。
ヒナタはすでに〝動かぬ証拠”を見つけ出しているに違いない。
となれば、これは大事だ。
村岡家もその悪事の数々を隠すためか、それとも消滅させるためかで文月家に近づいているとなれば……どうしたって村岡を潰しにかからなければならない。
文月家にとってマイナスになる要素は、根こそぎ絶やす必要がある。
それにはどうしたらいいか。
ヒヨリは唇に指を這わせながら考え込む。
それを傍で見ていたヒナタは、唇に笑みを浮かべる。
横であれこれ思案に暮れるヒヨリの表情は、すでにヒナタの身代わりをしていたころの完璧執事のようだった。
瞳に宿る光を見つけて、ヒナタは胸を撫で下ろした。