執事ちゃんの恋
拒絶されたら? 反論されたら?
―――― どうしよう。まずった。勢いだけできちゃったから。
自分の考えなさぶりを突っ込んでヒヨリは泣きたくなった。
でも、今叫んだことに嘘偽りはない。それだけは断言ができる。
ヒヨリは、ひとりでウンと小さく頷いた。
が、ヒヨリがこの場にきて言いたいことを叫んだあと。相手からの反応が全くと言っていいほどにない。
あの美沙子が、こんなふうに怒鳴り込んできたヒヨリに対し、何も言わないなんてことはありえない。
どう考えても敵対心むき出しで、ヒヨリに反応するはずだからだ。
それは、今までの冷たいまなざしでヒヨリを見ていた美沙子の様子をみれば明らかだ。
それが、あれからゆうに一分はたったというのに何も反応がない。
さすがに何も言われないとは思っていなかったヒヨリは、急に不安になった。
ゆっくりと強く瞑っていた瞳を開け、健と美沙子が二人で座っているはずの席を見つめたが、そこにはニコニコと機嫌よく笑う健がひとりいるだけだった。
「あ……れ? 健せんせ……だけ?」
修羅場を思い描いていたヒヨリとしては、健ひとりしかいない状況に拍子抜けしてしまった。
フッと力が抜け、あっけにとられていると、目の前の健はその様子をゆったりと瞳を細めて観察していた。
「そうですよ、ヒヨリ」
クスクスと笑い嬉しそうな顔をした健を見て、ようやくヒヨリは気がついた。
「やられた!!」
大声で思わず叫んだヒヨリを見て、健はお腹を抱えて笑っている。
それが答えのようだ。
どうやら罠に嵌められたようだ。
それはヒナタも一枚噛んでいるというこうとだ。もちろん目の前の健もそうだし、コウも今回の罠に加担しているに違いない。
何も知らされず、一人不安になったり、ヤキモキしたりと忙しかったこの時間を返せ、そう叫びたい気持ちだ。
だが、目の前の健の笑い声を聞いていたら、この状況がとても恥ずかしくなって穴でもあったら隠れてしまいたいとヒヨリは頬を真っ赤に染めた。
居たたまれないこの状況を打破しようと思うのだが、今だに健は陽気に笑い続けている。
初めは自分の大胆な行動について恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、少しずつ怒りが込み上げてきた。
ヒヨリは、まだ笑い続けている健を見て、口を尖らせた。