執事ちゃんの恋
文句のひとつでも言おうと口を開いたときだった。
突然笑い声を止め、健は真剣な表情になりヒヨリをまっすぐと見つめた。
「ぶち壊してくれる……気になりましたか?」
「健せんせ?」
なにをぶち壊せと言っているのだろうか。
ヒヨリは健の言葉の意図を探りながら、健を見つめた。
「私はね、待っているんですよ。その清らかな手で、未来をぶち壊してくれるのを」
「健せんせ」
健は、椅子から腰をあげ、ゆっくりとヒヨリに近づいた。
ヒヨリの右手を取り、優しく握る。
久しぶりの健の体温を感じて、一気にヒヨリの体温は上昇した。
真っ赤になった顔がとても熱い。
ヒヨリは、今この瞬間が夢ではないかと疑いたくなるほどだった。
甘い視線を健が自分に投げてかけている。
その現実に、ヒヨリは甘やかな眩暈を感じた。
「今、ここにいるってことは……文月家によって決められた未来をぶち壊す勇気をもってくれたということで間違いないかい?」
健の言葉は、冷静だった。
だけど、ヒヨリの手を握る健の手は正直だった。
小刻みに震えている。