執事ちゃんの恋
「じゃあ、健せんせが結婚しようと思っているのは誰なんですか? 言っていましたよね? コウさまの誕生日パーティーのとき」
コウの誕生日パーティーのとき、健は確かに言っていた。
結婚したい相手がいるということを。
そのときの健の様子を思い浮かべ、ヒヨリの胸はツキンと痛んだ。
健は、心痛な表情を浮かべるヒヨリをゆっくりと自分の腕の中に導いて、ああ、と納得したように深く頷いた。
「それはね、ヒヨリ。君のことですよ」
「……は?」
「だから、ヒヨリとの結婚を考えていたんですよ」
「え? ちょ、ちょっと待って。じゃあ健せんせ、裸身を描いたっていう人は? あれって美紗子さんのことじゃ……」
頭が混乱しているヒヨリを、より強い力で抱きしめて健はヒヨリの耳元でくすくすと笑った。
「違いますよ、女性の裸身を描いたのは初めてでしたが……あれは、ヒヨリですよ」
「え?」
「処女を捧げてくれた、あの夜。疲れ果てて寝てしまったヒヨリをスケッチしたんだよ」
衝撃的とはこのことを言うのだろう。
ヒヨリは、健から次からつぎへと明かされる事実に戸惑い、うまく呑み込めず茫然とした。
「じゃあ……」
「そう、結婚したいと思っているのはヒヨリ、君のことですよ」