執事ちゃんの恋
第40話
第40話
ギュッと力強く抱きしめられた身体、そこから伝わる熱。
声の響きに、ぬくもり、そして香り。
すべてが健からのものだ。そう考えるだけで、幸せと同時にこの状況に羞恥心が込み上げる。
よくよく考えてみれば、ここは喫茶店だ。それもさきほどこの二階に昇ってきたときチラリと見たが、数人の客がいたように思う。
ということは、今まで繰り広げられた大立ち回りを見られてしまったということだ。
その上、今、公共の場において抱きしめあっている。
現実に戻り、冷静に自分が置かれている状況を考えると顔から火を噴きそうだ。
「た、健せんせ……」
「なんですか? ヒヨリ」
相変わらず飄々とした態度の健に、ヒヨリは小声で呟いた。
「ここ……喫茶店でしたよね」
「そうだね」
「ほかにお客さんは……」
今は確認するのも恥ずかしい。ヒヨリは健に抱きしめられた形のまま健に問う。
少しの沈黙のあと、健はフフッと笑いを噛みしめた。
「大丈夫。顔をあげてもいいですよ、ヒヨリ」
「え?」
「今、ここには私とヒヨリ、二人だけです」
「で、でも……ほかにお客さん、いましたよ……ね?」
確かに階段を駆け上ってきたときにチラリとだけだが、まばらに人がいたはずだ。
不思議に思ったが、健の言うことを信じて顔をあげて辺りを見渡した。
確かに健が言う通り、ほかの客は誰もいない。この二階には健とヒヨリの二人だけだ。
ということは、今まで繰り広げられた数々の恥ずかしい状況をみられずに済んだということだ。
ヒヨリは、こっそりと安堵のため息を零したが、次の健の言葉で固まってしまった。