執事ちゃんの恋
「何が何でもヒナタを見つけだす。それまではヒヨリ、お前が踏ん張っていてくれ」
今も尚、霧島のほうでは内密に捜査をしているが、ヒナタは見つかってはいない。
でも、この世界中のどこかにヒナタはいるはずだ。
――― ヒナタが見つかるまで。それまではなんとか私が頑張らなくちゃ。
しかし、ヒナタはきっとなかなか見つからないことだろう。
あの男は、こういうかくれんぼ的なことが大得意。
その上、ヒナタはヒヨリのことを特に気にかけている。
だからこそ、必死に追捕の手を追い払うに違いない。
――― もし、今。自分が霧島に戻ったのなら……。
きっとヒナタが危惧しているように、顔も知らない男との結婚が待っている。
それも、健せんせがすぐ傍にいるというのに幸せな顔をして結婚生活をしなければならない。
それがどれほど苦痛で耐え難いものか。
ヒヨリはもちろん、ヒナタもわかっているのだ。
それを阻止するためにもと、ヒナタは今日もどこかでかくれんぼをしてくれているのだろう。
しかし、いつまでも逃げていられるとは考えにくい。
いずれは、ヒナタは霧島のお嬢様の執事として働き、私は霧島家に戻り婿養子との結婚が待っている。
入れ替わりのときは、必ず……来る。
でも、もう少しだけ。
もう少しだけでいいから、健せんせのことを好きなままでいたい。
そのためには、ヒナタは逃げ、私はヒナタを完璧に演じなければならない。
いつか来るであろう日までは、なにがなんでも……。
大きく深呼吸をしたあと、ヒヨリは緊張のあまり汗が滲む手でインターホンを押す。