執事ちゃんの恋
「霧島家に、男子が二人いなかったときのことをですよ」
「?」
そんな話は一度も聞いたことがない。
ヒヨリは、健の顔を食い入るように見つめた。
健はヒヨリのその食いつきようを見て、まずは座ろうかと椅子を引いてヒヨリに腰を下ろさせた。
そのあと健は目の前にあった椅子を引き、自分も腰を下ろす。
「今の霧島の後継者候補としては、ヒナタとヒヨリ。二人ですね」
「はい」
「でも、ヒナタは文月家に仕えることになっている。それは従来どおりです」
「はい、そのとおりですけど……」
「だから、ヒヨリは婿養子を迎えて、霧島を継がなければならない。そうですよね?」
「は、はい、そうですけど」
コクコクと頷きながらも、どこか疑問が残っているといった様子のヒヨリに、健は話を変えた。
「では、今度は文月家のほうです。今の文月家の正当な後継者はコウだけですね。でも彼女は女です。女は代々当主にはなれないと決まっている。となれば、コウに婿養子を迎えて、継ぐという形が望ましいでしょう」
「はい」
「でも、コウはまだ高校生。まだ結婚は早い」
「そのとおりです」
健の言う通りだ。文月家の正当な後継者はコウだ。
しかし、まだコウは高校生だ。そのうえ女とあって、文月家もずっと難色を示していたのをヒヨリも知っている。
深く頷くヒヨリを確認したあと、健はヒヨリに問題を提示する。
「で、今すぐに文月家を継げる人間は?」
「健せんせしかいないよね?」
思い当たる人といえば、健しかいない。
ヒヨリが即答すると健は深く頷いた。
「そのとおりです。実はね、ヒヨリ。昔にも同じようなことになったことがあったんですよ」
「同じようなことっていうのは、霧島に男子が二人生まれなかったときということだよね?」
「ええ、その上、文月家の後継者が女子しかいなかったときが、ね」
初耳だった。
ヒヨリはその話を宗徳から聞いたこともない。もしかしたらヒナタも知らない事実かもしれない。