執事ちゃんの恋
「なかなかいいシナリオだから、これで押し通しましょう。それとね、ヒヨリ。すでに村岡家には止めを刺しておきましたから、美紗子の父親からなにかを言ってくることはないでしょう」
「え?」
驚いて首を傾げるヒヨリに、健はこれ以上は内緒とばかりに笑うだけで何も教えてくれない。
「ふふ、それは内緒ですよ。さぁ、ヒヨリ」
「え?」
「私はもうこれ以上我慢できない。君を抱きたい」
さぁ、行こうかと立ち上がる健に、ヒヨリは真っ赤になりながら少しの抵抗を見せた。
突然、それもストレートすぎる健からのお願いにヒヨリは慌てて、考えた末の抵抗は時間稼ぎだ。
そういえばこの機会に聞いておきたいことがあった。
これを聞いておかねばならないと、ヒヨリは慌てて健に問いかけた。
「ねぇ、健せんせ。どうしてずっと鈴木だなんて偽名を使っていたの?」
抵抗を見せるヒヨリに難色を示していた健だったが、ヒヨリの質問を聞いて「ああ」と返事をして答える気になったようだ。
「あの霧島ばかりがいる村で、文月家のものだと名乗ったら……どうなると思う?」
「そ、そりゃあ……霧島にとって文月家は主だから、主従関係みたいになると思うけど……」
「それが理由」
「え?」
「私は文月家の者として接してもらうのではなく、文月 健、一個人として村の人に接してもらいたかった。それだけだよ」
ぐしゃぐしゃとヒヨリの頭を少しだけ乱雑に撫でる。
その撫で方は、幼いころに健がヒヨリにしていた行動のひとつだった。
とても懐かしくて、あのころを思い出した。
「あの村の人間はみんないい人ばかりだ。だから普通に接したかっただけ。霧島だけは俺の正体は知っていたけどね」
「そっかぁ……」
やっと偽名を使っていた謎が解けて、納得していたヒヨリの腕を健は強引に掴んだ。
「さぁ、種明かしがすんだところで……行こうか」
「っ!」
「ヒヨリ姫の乙女部屋に。ヒヨリを抱きしめて補充しなくちゃ。私はすでに倒れてしまいそうだからね」
真っ赤になり狼狽えて逃げ腰のヒヨリを、健は強引に引き寄せた。
そして……。
健はクスクスと笑いながら、腰を屈めてヒヨリの唇を奪った。