執事ちゃんの恋
「兄さんがヒヨリに縁談を持ち掛けたことを知ってね。で、詠二さんに話がいくように誘導させてもらった」
「ゆ、誘導って……」
「詠二さんに話したら、二つ返事でOKしてくれてね。助かったよ。今ごろは、詠二さんが兄さんをうまく宥めてくれているし、ヒナタも戻って村岡のことを話しているはず」
「そ、そうなんだ……」
どうやら栄西がヒヨリに縁談を持ち掛けようとしたのを知った健は、先手必勝とばかりに縁談をうまく潰せるように導いたらしい。
栄西はともかく、詠二に迷惑がかかったわけではないことにヒヨリは安堵した。
「また落ち着いたら詠二さんにお礼を言いに行こうか」
「はい」
コクリと素直に頷くヒヨリに、健は眉間に皺を寄せた。
「ねぇ、ヒヨリ。いつから私に対して敬語になってしまったんだい?」
「へ?」
「でも、ときおりため口も出てくる。もしかして私が文月家の者だとわかったから敬語を使わなくてはならないと思ってやっている?」
「えっと……」
健の指摘どおり、ヒヨリは今まで健に対して敬語を使っていなかった。
だが、やはり健が文月家の人間だとわかった以上、主を敬うようにしなければならない。
そう思って始めた敬語だったが、やはり長年敬語を使わず、自然体で話していた相手に突然敬語を使うというのはなかなか至難の業だ。
ポロリとボロがでてしまうことはヒヨリ自身もわかっていたが、なかなか直らなかった。
それに健も気がついていたらしい。
ヒヨリは、いたたまれなくなって俯いた。
「ヒヨリは今までどおりでいいんだよ」
「で、でも……」
「だってヒヨリは私の妻になるんだから。主従関係にはならない。だから、今までとおりでいいんだよ?」
「つ、つ、妻って?」
慌てるヒヨリを見て、健は意地の悪い笑みを浮かべた。