執事ちゃんの恋
「おや? 私からの愛を受け取っただろう? 私との本気の恋愛は、そのまま直結して結婚だよ?」
「け、け、結婚!?」
ひっくり返りそうなぐらい驚くヒヨリに、健はクスクスとおかしそうに肩を震わせた。
「そう、結婚だよ。ヒヨリからは言霊をとったからね。もう逃げられないよ?」
「こ、言霊って?」
顔を引き攣らせ問うヒヨリに、健は満面の笑みを浮かべる。
「いやだなぁ、ヒヨリ。忘れてしまったのかい? さっき言ってくれたじゃないか」
「え?」
「私のことが好きだと、私の未来を守ってくれる、と」
「そ、それは……」
狼狽えるヒヨリに、健はグイッと顔を近づけ首を傾げた。
「あれは嘘なのかい? ヒヨリは私を騙したのかい?」
「だ、騙してなんかない、よ」
「じゃあ、いいじゃないか。遅かれ早かれ私たちは結婚するんだから」
フフッと楽し気に笑う健を見て、負けましたとヒヨリは肩を落とした。
が、それだけで終わるわけがなかった。
健は、「そういえば」と今思い出したとばかりに手をポンと叩いた。
「霧島の使用人頭のヨネからも頼まれているんだよ」
「え?」
「深々と頭を下げて、お嬢様をお願いしますとお願いされたよ」
「ヨネが……?」
「ヒヨリお嬢様はすべてを捨てようとしているから、それをどうか食い止めてくださいってね」
ヨネは知っていた。
ヒヨリが執事となるために女を捨てたこと。そして、健への気持ちを捨てようとしていたことを。
それを食い止めようと健に託したのだろうか。