執事ちゃんの恋





 そういってニヤリと笑った顔を、ヒヨリは一生忘れないと思った。

 もちろん健のいう〝いい縁談”とは健とのことで、承諾しない限りは文月家の家督を継がないと言い切ったのだ。
 最初は栄西も渋った。

 ヒヨリは霧島の大事な一人娘、そのうえ跡取り。
 婿養子を迎えて、霧島を盛り立てていくことが決まっているのだから、と。

 渋る栄西に、健はにっこりと心底恐ろしくなるほどの笑みで、あることを栄西に告げたのだ。
 その内容には、傍で聞いていたヒヨリも驚いて瞬きもできないほどだった。


「押し付けなんて人聞きの悪い。コウには幸せになってほしいだけですよ?」

「だから! それが余計なおせっかいだって言ってるの!」

「だってコウはいずれ兄さんが決めた相手とイヤでも結婚しなくちゃだめなんですよ?」

「うっ……」


 健に痛いところをつかれ、言葉を詰まらせるコウに健は容赦なく畳みかける。


「生理的に受け付けない相手だったら、どうするつもりですか?」

「……」

「でも、ヒナタならそういうことはないでしょ? なんせヒナタとそっくりの妹に恋しちゃったぐらいですから」


 黙ったまま拳を震わせるコウに、誰もが憐れみの視線を送った。
 どうしたって健に口で勝てるわけがないのだ。
 
 栄西に指摘されたこと〝霧島の跡取りはどうするのか”この問いに健は迷いもなくコウのことをあげた。


「兄さんについている執事、霧島了が再び私につけば問題はないでしょう。了はまだまだ若い。それなら当主になった私専属になってもなんら問題ないですから」

「と、いうことは……?」

「今、コウについている霧島ヒナタは必要なくなるということです。となればヒナタは霧島に戻ることができる。これで霧島の跡取りの件は解消したでしょう。ついでにヒナタの嫁にコウなんてどうでしょう」

「コウをか……?」

「ええ。コウだって見知らぬ好きでもない男のとろこに嫁ぐよりは、大好きな自分の執事のところに嫁ぐほうがいいでしょう」


 という会話をさきほど栄西とした健は、その足でコウの部屋に訪れ今に至るわけだが……。

 コウは猛反発している。







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