執事ちゃんの恋
第1話
第1話
「健(たける)せんせー! 頼まれていた茶葉、持ってきたよ」
築50年は当に超えているであろう日本家屋の引き戸を開け、ヒヨリは叫んだ。
茶畑ばかりが続くこの土地に、ヒヨリの声だけが響く。
霧島ヒヨリ、19歳。
あと数日で20歳を迎える。少女から女性への階段を上っている最中といった感じだろうか。
このあたりでは有名な霧島家の現当主の長女だ。
腰まである長い黒髪をサラリとなびかせる。
霧島家は大きなお茶問屋をしており、茶畑も広大な土地を所有している。
お店も何店舗か県内にあり、有名な茶葉屋だ。
著名人や公人などがご用達として使用している茶葉を作っているということでも有名な家の一人娘だ。
ヒヨリは、もう! と少しだけ拗ねて玄関先で口を尖らせる。
しかし、いまだ肝心の家主の声は聞こえない。
シーンと静まり返ったままだ。
いつものことだ、とヒヨリは呆れながらもう一度声を張りあげた。
「ちょっとー、いることはわかっているんだから。でてこーい!」
再び訪れる静けさにため息を零したときだった。
奥から間延びした声が聞こえた。