執事ちゃんの恋
「貴方、霧島ヒナタでしょ?」
「え? ええ……」
あまりに純粋な瞳でまっすぐとヒヨリを見つめるものだから、返答が遅れてしまった。
が、そんなヒヨリを見て頬を真っ赤にさせて上目遣いで見つめる少女。
――― ちょっ、ちょっと! か、可愛いんですけど! なに、この生き物は!
思わずこの少女を着飾ってみたいと思ってしまった。
絶対にこの女の子がゴスロリの格好をしたら似合う。
ヒヨリは、自分が所有する衣装の数々を思い浮かべ、着せ替え人形のように目の前の少女に着させて楽しむ。
自分は背丈が高すぎるし、キュートとは程遠い。自分がもし着たとしても、はっきりいって似合わない。それは自分でもわかっている。
だけど、可愛いものや姫グッズは大好きなのだ。
霧島にいるころの自分の部屋は、ピンク色フリルたっぷりのお姫様仕様だった。
他人には隠している趣味のひとつ。
可愛いものを見ると堪らなくなってしまうのだ。
想像して思わず目尻を下げてしまいそうになるのをグッと抑えた。
それは、彼女の口からとんでもない言葉が出てきたからだ。
「今日からよろしくね、ヒナタ」
「……」
思わず固まってしまった。言葉が出てこなかった。
そんなヒヨリを見て、また毒気が抜かれてしまうほど能天気な笑顔でニコニコとしている女の子。
霧島ヒナタの名前を知っていて、なおかつ今日からよろしくねと挨拶をしたということは……。
鎌をかけるつもりで恐る恐る口を開く。
「つかぬ事をお伺いいたしますが……」
「ええ」
「もしかして……文月コウお嬢様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうよ」
ハミングでもしそうな軽やかな笑い声と一緒に聞こえたのは肯定の言葉。
と、いうことは目の前の少女は今日からお仕えするコウなのだろうか。
しかし、とヒヨリは眉を顰めた。
文月コウは、高校生だ。もうすぐで16歳の誕生日を迎えるのだから。
だが目の前の少女は、どうみつもっても中学生ぐらいにしかみえない。
パッと見は、完全に小学生だ。
美少女だとは思う。
日本人形のようなきめ細やかな肌に、真っ黒で豊かな髪。
大きな瞳はキラキラと輝いていて、小さな桜色の唇が可愛らしい。
だが、どうみても高校生には見えない。
黙ったままコウを見つめるヒヨリに、コウは口を尖らせた。