執事ちゃんの恋




「……ねぇ、ヒナタ」

「はい……」

「あなた、今。かなり失礼なこと考えていない?」


 動揺して思わず肩が揺れてしまった。

 その様子を見ていたコウは、大きくため息をついて頬を膨らませた。


「正真正銘の文月コウよ。これでも高校生」

「も、申し訳ありません。コウお嬢様」


 慌てて頭を下げるヒヨリに、コウはクスクスと笑う。


「いいわよ、もう。みんな初対面は、私のこと小学生と間違えるのだもの。どうせヒナタも私のこと小学生だと思ったんでしょ?」

「……ええ」

「ちょっと、そこは否定しなくちゃいけないところでしょ?」

「申し訳ありません」

「ってか、そこは謝るところじゃないし……あー、もういいわよ」


 ガックリと項垂れる目の前のコウを見て、ヒヨリは思わず笑みを浮かべた。

 可愛らしい外見に似合わず、言いたいことはポンポンと言うコウは、みていて清清しい。

 このお嬢様になら一生懸命お仕え出来そうだ。


 ニコニコと笑うヒヨリをチラリと見たあと、コウは頬を赤く染めた。


「これからよろしくね、ヒナタ」

「はい、コウ様。誠心誠意、あなた様にお仕えいたします」


 ヒヨリは、その小さな手をソッと取り敬愛と忠義の意味を込めて唇を寄せた。

 あのプレーボーイを地でいくヒナタなら絶対にやるであろう行動をあえてヒヨリはやることにした。

 それは、今後のため。

 いつでもヒナタと入れ替わりができるようにしておくため。

 入れ替わっても不信感を与えないために、今から徹底してヒナタになりきらなければ。
 
 一瞬あっけにとられていたコウだったが、慌てて手を引っ込めた。


「ヒ、ヒ、ヒナタ!?」

「おや、どうかされましたか?」

「……この西洋かぶれめ! ここは日本なんだからねっ!」


 そういって背を向けるコウ。

 しかし、項まで真っ赤な様子を見てヒナタはあまりの可愛らしさに頬を緩めた。


 ――― コウさま弄り、クセになりそうだわ


 突然できた可愛らしい妹のようなコウに、ヒヨリの心は浮上した。









 
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