執事ちゃんの恋




「ヒナタ」

「……はい」

「ヒナタは誰の執事?」

「それはコウ様です!」


 間髪いれずにそう言い切ったヒヨリを見て、コウは少しだけ満足して微笑んだ。


「そう、ヒナタは私の執事よ。だから独り占めしたいわけ、わかる?」

「……コウ様」

「ここに来たら、ほかの女の子たちから注目されちゃうでしょ? もしかしたらヒナタを奪おうとする子もでてくるかもしれないもの」

「コウ様」


 そっぽを向いたコウの頬は真っ赤だった。

 コウの命令の意味がやっとわかって、ヒヨリは心から安心した。

 そういうことならば、とヒヨリはコウの手の甲に唇を寄せた。



「ヒ、ヒ、ヒナタ!?」


 コウの叫び声とともに、ギャラリーにいた女の子たちもキャーと悲鳴をあげた。

 騒然とする中、ヒヨリはコウにニコヤカに微笑んだ。



「コウ様の仰せのままに。では、これからはコウ様のお帰りを屋敷でお待ちすることにいたします」

「っ!」

「学園への送迎は涙を飲んで冴島さんに頼みますが、それ以外では私めをお連れください。いいですか? コウ様」

「わ、わ、わかってるわよ! もちろんよ!」


 それならいいのです、とヒヨリが満足げに笑うとコウはますます顔を真っ赤にさせた。

 
「ヒナタ」

「はい」

「あなたって……食えないヤツよね」

「お褒めいただき恐縮でございます」


 コウはきっと気がついたのだろう。

 どうして人目があるところで、コウの手の甲に口づけをしたのか。

 それは周りへの牽制のため、だということにだ。

 主であるコウに絶対服従しているということを周りに示しておけば、コウが心配している引き抜きをしようとする輩は少なくなる。

 
 そして。

 コウが少なからず嫉妬していると感じたヒヨリは、そんな可愛らしい主に心配はいらないと伝えたかった。

 一番はコウの気持ちを汲み取ったわけだが……少しやりすぎてしまったかと少しだけ反省をしたヒヨリだったが、きっと兄である双子の片割れヒナタなら絶対にこういう行動をしただろうと自信を持って言い切れる。

 
「コウ様にずっとお仕えいたしますよ。ご安心してください」

「ヒナタ」


 その言葉でコウは花が綻ぶように笑う。

 これでいい。執事たるもの、いつも主の心の安定を図るべきだ。

 どんな手段をとってでも、主を守るもの。それが執事たるもの。


 イギリスにいる間、ずっと聞かされていた言葉だ。

  
「いってらっしゃいませ、コウ様。お帰りをお待ちしております」


 頭を下げて主が学園に入っていくのを見送ったあと、車に乗り込んだ。

 すると、それを待っていたかのように携帯が鳴る。

 ディスプレイを見て、ヒヨリはサッと表情を変えた。








 
 
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