執事ちゃんの恋
『からかいのために電話してきたのなら切りますけど?』
『くくくっ……』
『切りますよー!』
今だ笑いが止まらない宗徳に呆れたヒヨリは、携帯を耳から離そうとすると『待て!』と今だ笑いが止まらない宗徳の制止の声が聞こえた。
『もう、いったいなんですか!? 私も暇ではないんですよ? それはもちろんお父様もそうでしょうけどね』
イヤミの一つも言いたくなる。
ヒヨリはムンと口を真一文字に結び、笑いを必死に抑えようとしている宗徳に苦言をした。
『悪い、ヒヨリ。ククッ……詳細はメールしておくから』
『……は?』
『じゃあな、ヒヨリ。なんとかヒナタを見つけるまで踏ん張ってくれ。じゃあ』
『え!? ちょ、ちょっと!?』
プツリと切れる電話。
ツーツーツーと無機質な機械音しかしない携帯を唖然として握り締めるヒヨリだったが、間髪いれず今度はメールの着信音が鳴り、思わず携帯を落しそうになる。
慌ててメールを開いてみると、宗徳からのメールだった。そしてタイトルは無題。
「……まったく、なんだったのよ。あの電話は」
意味不明な父、宗徳の行動に不審ばかりが募る。
このメールもなにか嫌な予感がするのだが、開かないといけないだろう。
ヒヨリは大きくため息を零したあと、しかたがなくメールを開く。
そこにはまた、謎の暗号?
「……これってどういう意味?」
メールには住所が書かれてあるのみ。
ここにいけ、といいたいのだろうか。
首を傾げて何度もメールを見たのだが、それ以外は書かれていない。
追っての電話もないところをみると、とにかくその場所に行けということなのだろうか。
ヒヨリは、メールに記載されている住所をナビで検索をかける。
コウを学校に送り届けたあとは、少しだけ時間が空く。
文月家に戻ってやることはまだまだたくさんあるが、とりあえずは少しの時間ぐらいなら抜けても大丈夫だろう。
ヒヨリはそう判断して車を走らせたのだが、待っていたのは霧島家に仕えるヨネだった。
恭しく腰を曲げて頭を下げるヨネに走りよると、久しぶりのヨネの笑顔に迎えられた。
「ヒヨリ様。お久しゅうございますね」
「っていっても、まだ二週間もたっていないけどね」
「左様でございますね」
クスクスと楽しげに笑いながらヒヨリをマンションのロビーに促した。
宗徳から指定された住所は、高層マンションだった。
パッと見ただけでも高級マンションと呼ばれるであろう類の建物だ。
ヨネに促されるままにエレベーターに乗り込み最上階まで上る。