執事ちゃんの恋
「それは絶対に無理をしているに決まっていますとも。なんせあれだけ姫グッズに囲まれることを癒しとしていた人が、突然その環境から離されたのですから、と」
「……は、はぁ」
「それも男装だなんて。もともとヒヨリさまは乙女チックなところがございますのに、なんとかわいそうなことでしょうと言ってやりました」
「さ、さすがは霧島家の影のドン……」
ポツリと呟いたヒヨリの言葉を聞いて、ヨネはフンと鼻であしらう。
「で、青ざめた宗徳さまに提言させていただきました」
「なるほど、それでこのマンション……」
「左様でございます」
ホホホと軽快に笑ったあと、ヨネはヒヨリにソファーに座るように促した。
「ですので、こちらはヒヨリさまに戻る部屋。息が詰まったときに息抜きにいらしてくださいな」
「ありがとう……すっごく嬉しい」
ヒヨリの心からの言葉にヨネは嬉しそうに頷いた。
「宗徳さまにも、その言葉。言ってさしあげてくださいな」
「……そうだね」
コクリと素直に頷くヒヨリを見て、ヨネは今更ですがと笑い出した。
「姫グッズに囲まれて格好をなくしているヒナタさまって感じでおかしいですね」
「……だよね。この格好をして姫グッズを喜んでいるのを傍からみたらおかしいわよね」
ヒヨリの今の格好は、もちろん執事服。
パリッとした黒のスーツに身を纏い、髪もムースで後ろに撫で付けてある。
どこからどうみても男で、霧島ヒナタだというのに、嬉しそうにピンクやフリルで敷き詰められた部屋で嬉々としていたら……やっぱりおかしい。
ヒヨリとヨネは顔を見合わせて、この状況に思わず噴きだしたのだった。