執事ちゃんの恋
まだコウは16歳なのだ。
それなのに周りのオトナたちが勝手にコウの未来を決めていく。
それを傍で見ているヒヨリにとっては苦痛でしかない。
20歳というオトナと呼ばれる年になっても未来の旦那を勝手に決められることを苦として逃げ出した。
それなのに、まだ16歳という年齢で未来を決め始めなくてはならないと
は……。
このことについて、コウは一度も弱音をはかない。
言いたいことはたくさんあるのだろう。
しかし、それを口にしたってしかたがない。
そんな雰囲気が傍にいて伝わってくる。
そう、しかたがないのだ。
そういう家に生まれ育ってしまった運命(さだめ)なのだから。
一口で言えばそれまでだ。
だけど、そんな言葉だけでは語りつくせないほどの苦悩を強いられているコウ。
自分も同じ立場ということで、ヒヨリはより一層コウの気持ちがわかり胸が痛む。
いや、コウのほうが過酷な立場と言えよう。
家の規模が全然違いすぎる。
文月家というバックはそれだけ大きく聳え立つから。
執事として少しでもコウのバックアップをしてあげたいと思う一方、何も出来ずに歯がゆいばかり。
一介の20歳の人間が、文月家当主に申し立てなど出来ない。
だから今のヒヨリにできることといえば、ただひとつ。
コウの心を少しでも和らげることを意識して接するだけ。
それだけしかできないことを歯がゆく思いながら、ヒヨリは小さくため息をついた。
が、すぐに掻き消すように口元をギュッと横に結ぶ。
主人であるコウが弱音を言わないのだ。
自分が弱気でどうする。
そう叱咤しながら、ヒヨリは今日行われる誕生パーティー、又の名をお見合いパーティー出席者の名簿を見ながら要注意人物を洗い出していく。
すべての人物が、コウに好意を抱いているわけではない。
結婚相手として品定めをするものもいれば、隙あらば文月家を陥れようとする輩も当然いる。
それを傍にいて、さりげなくエスコートするのは執事であるヒヨリの仕事だ。