執事ちゃんの恋




 ――― あと何年、コウ様は執事(ヒナタ)をパーティーのエスコート役にと願うのだろうか。


 婚約者が決まってしまえば、その彼がコウをエスコートすることになるのだろう。

 そして結婚された暁には、執事という存在はコウの傍から消えることになる。


 そのあとは、コウの執事としてではなく内々の仕事をこなしたり、文月家関連の会社に行くということをしていくのだろうか。

 今後の予定は、すべてコウ次第。

 そして文月家当主である栄西次第といったところか。

 
 腕時計をチラリと見れば、メイド頭が指定してきた時間になろうとしていた。

 ヒヨリは手元に持っていた資料をスーツのポケットに忍ばせ、コウの傍へと歩み寄る。


「コウ様。そろそろお召しかえの時間でございます」

「……」


 持っていたカップをテーブルに置き、コウはチラリと時計を見る。

 そして少しだけ息を吐き出したあと、ヒヨリを見上げた。



「わかったわ、ヒナタ」


 ゆっくりと優雅に立ち上がり扉に向かったコウだったが、背を向けたままヒヨリを呼んだ。



「ねぇ、ヒナタ」


「はい、なんでございましょうか。コウ様」



 ピタリと動きを止めたままのコウは、背後にいるヒヨリに声をかけた。


「ヒナタはずっと、私の傍にいてね」

「……コウ様?」


 涙声のコウに気がつき、ヒヨリは慌ててコウに駆け寄ろうとしたのだが、それを制止するようにコウはヒヨリを振り返った。

 その頬には涙の筋が一本。

 キラリと光る雫は、音もなくカーペットに染みていく。


 ハンカチを取り出しコウに近づこうとするヒヨリに、コウは首を振って再び制止させた。


「ヒナタだけは、私のこと好きでいてね」

「コウ様……」

「ヒナタが傍にいてくれれば、パーティーの最中も笑顔でいることができるから」


 搾り出すように言葉を紡ぐコウに、ヒヨリはゆっくりと彼女に近づいた。





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