執事ちゃんの恋
「コウ様」
「……」
ハンカチでコウの涙を優しくふき取ると、ヒヨリは彼女の目線に合わせるべく膝まづいた。
「私はいつでもコウ様の味方であり、理解者でありたいと常々思っております」
「ヒ、ヒナタぁ……」
ボロボロと涙を零すコウを見て、ヒヨリは安心させるようにゆっくりと笑みを浮かべる。
「私はコウ様専属の執事でございます。コウ様が望まれる限り、ずっと傍におります」
「……ありがとうぉ……ヒナタ」
グズグズと鼻を啜りながら、それでも笑顔を浮かべるコウ。
彼女は今も尚、戦っているのだろう。
強い。
前を見据えて戸惑いながらも歩んでいこうとするコウを見て、ヒヨリは胸が締めつけられる思いがした。
きっとコウもわかっている。
ずっとなんて無理だということを。
コウの結婚が決まったら……執事といえど男を傍に置くことはなくなる。
もし、今日のこのパーティーで相手が決まってしまえば……コウとは、これっきりだ。
それをわかっていてコウはあのようなことを言ったのだろう。
部屋を出ると、待ってましたとばかりにメイド頭がコウを別室へと促す。
ゆっくりと視線を前に向けたコウの横顔は、すでに文月家長女の誇りを感じるほどに凛としていた。
「コウ様」
下手をすれば小学生に間違えてしまうほどのあどけなさはなりを潜め、16歳とは思えぬほどの存在感を感じた。
これが生まれながらにしての名門中の名門のお嬢様なのだろうか。
小さな背中が、今は大きく見える。
ヒヨリは、コウの姿が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けた。