執事ちゃんの恋
第9話
第9話
「コウ様。ちょっと椅子に座りましょうか」
「……だけど」
挨拶をする人の波が少しだけはけたのを見計らって、ヒヨリはコウに小さく声をかけた。
ここはとあるホテル。
名高いホテルを貸しきって文月家長女であるコウの16歳の誕生日パーティーが行われている。
大きな広間には、着飾った女性や男性がたくさん集まり談話が繰り広げられている。
煌びやかなその場で、コウは立派にホストを務めていた。
コウに顔を覚えてもらおうと、次からつぎに人が挨拶にやってくる。
そのたびにヒヨリは、名前と大まかな経歴などをコウの耳元で囁く。
前もって要注意人物としてチェックしていた人物が来たときなどは、すぐにコウを守れるようヒヨリが盾となり、サラリとかわす。
とにかく招待客全員がコウの下に挨拶にやってくるため、コウはもちろんヒヨリも張り詰めた空気の中、気がつけば数時間が経っていた。
コウの横顔を見れば、笑顔の中に疲労が見え隠れするようになった。
それに……。
ヒヨリはソッとコウの足元を見る。
今日のコウのいでたちは、ミディアムブルーのフワリと裾が広がった膝丈のドレスだ。
ドレスのラインは、可愛らしさを強調している。
しかし、深いブルーは少しだけオトナの雰囲気を漂わせていた。
そして足元はシャンパンゴールドのパンプス。
少しだけヒールが高いそれは、なかなかパンプスを日ごろはかないコウにとっては疲れるものだろう。
それに先ほどから、少しだけ足を引きずるような仕草をするようになっていた。
ヒヨリは、まだ頑張ろうとするコウの耳元で小さく囁いた。