執事ちゃんの恋




「ヒナタ、どこに行くの?」

「今なら抜け出すことは可能です。とりあえず抑えてあるお部屋へと行きましょう」

「……うー」


 まだ良しとせず唸ったままのコウに、ヒヨリは苦笑した。


「コウ様」

「なによ」

「いい子にしていてください。あまり駄々をこねてはいけませんよ」

「っ!!」

「さぁ、私の首に腕を絡ませてください。……行きますよ?」


 やっと大人しくヒヨリの腕に抱かれたコウを見て、ヒヨリは丁寧にコウを抱き上げて部屋へと急ぐ。


「ねぇ、ヒナタ」

「なんでございましょうか、コウ様」

「……子供扱いなんてしないで」

「子供?」

「ええ。だって、さっきいい子にしていてくださいって言った!」


 ギュッとヒヨリの首に回していた腕に力をいれるコウに、ヒヨリはクスクスと思わず笑ってしまった。

 
「なんで笑うのよ!」

「いや……申し訳ありません」

「ヒナタ!」


 きつく睨みつけるコウだったが、ヒヨリからすればその表情も可愛らしい女の子が拗ねている様子に見えてほほ笑ましい。


 今日のドレスも、どこか……そう、好奇心旺盛な女の子がウサギを追いかけ、穴の中に飛び込むというあの物語の少女を彷彿させるようなラインで可愛らしい。


 が、ヒヨリの趣味の視点から言えば、もっとスカートの裾を短くしてフワフワのペチコートに、編み上げのロングブーツを合わせたい。


 そんなことをこっそりと思っているとは、コウも思ってもいないだろう。

 そんなことを考えれば考えるほど笑いが止まらず、ヒヨリは少しだけ困った。

 やっと笑いが収まったヒヨリに、コウは悔しそうに顔を歪めた。




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