執事ちゃんの恋
「はい、これ。頼まれていた茶葉ね」
「ああ、ありがとう。このお茶を飲んでしまうと、ほかのものは飲めなくなるね」
「そうでしょう、そうでしょう。霧島屋特製の茶葉だもん。心して飲みたまえ」
ムンと胸を張るヒヨリに、健はクスクスと笑い、起き上がって茶葉を受け取ろうとしたが一瞬動きが止まった。
「ん?」
どうしたのかとヒヨリはもう一度健に茶葉の袋を差し出すと、健は無言で受け取ったあとまじまじとヒヨリを見つめた。
「ど、どうしたの? 健せんせ」
思わず顔が熱くなっていくのがわかる。
どうしよう、こんなに至近距離で健せんせに見つめられたら、どうしていいのかわからない。
鼓動の音が、目の前の健に聞こえるのではないかと心配するぐらいに胸が高鳴っていた。
そんなヒヨリの心境などそ知らぬふりの健は、少しだけ表情を和らげた。
「もうすぐで20歳の誕生日だね」
健がカレンダーをチラリと見たあと、いかにも今思い出したとばかりに切り出してきた。
ヒヨリは、今はあまり聞きたくない20歳の誕生日というフレーズに胸を痛ませながらも、目の前の健には笑顔で頷いた。
「そうだよ、もう20歳。オトナの仲間入りね」
「もう、そんなになるんだな。早いな」
「健せんせと初めて会ったのは、私が小学生のときだもんね」
あの日のことを忘れたことなんてない。
あれは、かなりの衝撃だった。
「こんにちは。初めまして。鈴木といいます」
「……」
「ヒヨリちゃん、でよかったかな?」
そういって微笑んだ健の顔は一生忘れないと小学生のヒヨリは頬を真っ赤にさせて思った。
ズキュン!!
そんな効果音が鳴り響くような、全身を駆け抜ける衝撃。