執事ちゃんの恋
「コウ様」
「……なによ」
すっかり機嫌を損ねてしまったようで、ヒヨリは困ったなぁと眉を下げる。
ここはひとつ、プレイボーイと名高い双子の兄のように切り抜けようかと、ヒヨリは甘く微笑んだ。
「コウ様がおかしなことをおっしゃるので、思わず笑ってしまいました」
「……おかしなこと?」
ええ、と微笑みながら頷くヒヨリを見て、コウはサッと頬を赤く染めた。
「子供だと思っていないのに、コウ様が子供扱いをしないでと言われたことに笑っていたのですよ?」
「っ!」
「今日のコウ様は、一段とキレイでございますよ」
コウの身体が一気に熱くなったのがわかったヒヨリは、それ以上はなにも言わず部屋へと急ぐ。
部屋の扉の前まで行くと、コウをゆっくりと下ろし、ジャケットからカードキーを取り出す。
カードキーを差込み、ピッという開錠の音を聞いたあと、ヒヨリが扉をあけてコウを促す。
一歩部屋に足を踏み入れたコウだったが、急にクルリと後ろにいるヒヨリに向き合った。
「本当、ヒナタは口がうまいわよね」
「口がうまい?」
「ええ。あんまり心にもないことばかり言っていると、女って本気にしちゃうわよ?」
フンとアゴをあげて悪態をつくコウに、ヒヨリは優しく微笑んだ。
「コウ様。それは心外ですね」
「心外?」
「ええ。私は思ったことしか言葉にはいたしませんよ?」
「っ!!」
コウは、ボンと湯気が出てきそうな勢いで顔を真っ赤にさせたのだった。