執事ちゃんの恋
第10話
第10話
「では、コウ様。私は、自室に戻り救急セットを取って参りますので、しばしお待ちください」
「……わかったわ」
やっと観念したとばかりに大きなため息を落としたコウを見て、少しだけ笑みを浮かべたのはヒヨリだ。
コウの控え室としてとっておいた部屋に戻ってからも、すぐに戻ろうとするコウにヒヨリは説きふせた。
「コウ様。そのおみ足で今戻られたとしても、痛みのせいで集中力をかいてしまい迎え撃つはずの敵を見極めることができませんよ?」
「うっ……」
言葉に詰まったコウを見て、ここぞとばかりにヒヨリは突いていく。
「今は、衛さまの演奏でゲストの皆様方の大半は、コウ様が会場にいないとは気がついていない」
「……」
「だからこそ、こうして騒ぎにもならずに抜け出せた」
「……うん」
コクリと弱々しく頷くコウを見て、ヒヨリはフッと表情を緩めた。
「もし、今このまま戻られて……痛くてどうしようもなくなったとき。コウ様はどうなさいますか?」
「……」
「ゲストの皆様の視線を浴びながら、会場を後に……できますか?」
「……わかったわよ」
次からつぎにとヒヨリに言いくるめれてしまえばコウとて何も言えない。
大きく息を吐き出したあと、コウはソファーに身を任せた。
「大人しくヒナタに従います」
「いい心がけでございます。コウお嬢様」
清まして手を胸に当て、会釈をするヒヨリを見てコウは再び大きくため息をついた。