執事ちゃんの恋
「どうかされましたか?」
「……ヒナタって。人を操縦するのが上手よね」
「そうでしょうか……?」
首を傾げて不思議そうにしているヒヨリに、コウは大きく頷いた。
「私なんて掌で転がされている感じがするわ」
ハァとわざとらしく肩を落すコウを見て、ヒヨリはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「人を操縦するのが上手というより、」
「ん?」
「コウ様を操縦するのが上手だということでしょう」
「っ!」
コウは、真っ赤になって口惜しそうにヒヨリを睨む。が、そんな睨みなどヒヨリにしてみれば他愛のないこと。
フフフと意味ありげに笑うと、ヒヨリはポットに被せてあったティーコゼーをとり、用意してあったティーカップにゆっくりと紅茶を注ぐ。
フワリと甘いフレーバーが香る。
それをコウの目の前に置いて、冷めないうちにどうぞと微笑んだ。
「では、私はすぐに換えの靴と、救急セットを取ってまいります」
「っ!」
ヒヨリをいぜん睨みつけて、なにか言いたげなコウを笑顔で制止し、ヒヨリは急いでコウの部屋から出る。
やっとコウが素直に待つと言ってくれたことに安堵しながら扉を静かに閉める。
廊下に出たあと腕時計を覗き込み、まだなんとか時間はあるだろうと計算してコウの隣の部屋へと足を向けた。