執事ちゃんの恋
「数ヶ月日本を離れていたら、突然ヒナタもヒヨリもいなくなったと聞きましてね」
「えっと……」
「あの夜の次の日でしたか。ヒヨリが戻ったあと、仕事でフランスに行かなくてはならなくなりましてね。すぐに日本を発ったのだけど、フランスに着いてすぐにヒヨリに電話したのだが連絡がつかない」
「……」
「どうしたかと心配して霧島家に問い合わせをしてみれば、お答えできませんの一点張り。あの家政婦は使えませんねぇ」
チッと舌打ちをしながらも、今だヒヨリの身体に指を沿わしている。
すでに甘い予感で力が入らないヒヨリは、もう抵抗の手を諦めた。
「ヨネさんに取り次ぎを頼んだのだけど、なんでも湯治の旅に出かけたとかで詳しいことがわからないし。本当に参りましたよ」
「……」
なんとなくそのときの健と霧島家の家政婦との間のひと悶着の様子が手に取るようにわかり、ヒヨリは苦笑するしかできなかった。
ヨネがいないとなると、ほかの家政婦ではいろんな意味でヒヨリがどうしていなくなったのか知らされていないことが予想される。
健からの電話に出た家政婦は、不幸としかいいようがない。
きっと涼しげな笑みを浮かべながら、それでも瞳は笑っていない健は容赦なく追求をしたのだろうと予測できる。
そんな健の相手など、霧島家の家政婦で切り抜けれるのはヨネしかいない。
そんなことをぼんやりと考えているヒヨリは、健の次の言葉で一気に意識を戻す。
「……今、なんと?」
思わず健の顔を凝視し、もう一度質問するヒヨリに健はフンと鼻で笑いながら、さきほどヒヨリに言った言葉を反復した。
「だから、霧島から今回の話しを聞いたときは、さすがに殺意を覚えましたね。ヒナタの代わりにヒヨリを文月家におくったなど言語道断です」
「……つかぬことをお聞きしますが」
「はい、なんでしょうか? ヒヨリ」
ニコリと笑う健。しかし、その笑みは怪しげでヒヨリは顔を引き攣らせた。