執事ちゃんの恋





「ヒヨリ」

「ひっ!」


 考え込んでいたヒヨリの背後から健が抱きしめてきた。

 そしてヒヨリの耳元で名前を呼ぶ。

 その低くて甘い声。その声色には覚えがあった。


 あの夜。

 抱きしめあった、あの夜に何度も聞いた声だ。

 ヒヨリはゾクリと甘い予感で身体中が震えた。



「健、せんせ」

「私の可愛いヒヨリを文月本家に執事としてだしただなんてね。それも、男と偽ってただなんて」

「ん!」


 健の唇がゆっくりとヒヨリの項を這う。

 あの夜にはまだ長い髪があった。

 しかし、今は……。


 ヒナタと同じ髪型となった今は、項はすべて背後にいる健に見えているはず。

 その項を愛おしそうに触れる健の指。

 ヒヨリは、カァッと一気に身体が熱くなった。


「こんなに色香が漂っているヒヨリに男の真似事など。許せませんねぇ」

「た、健せんせってば! ダメっ!」


 このまま健のされるがままになっていたら、どうにかなってしまう。


 健の腕から逃げようとするヒヨリだが、それを拒むように健は耳元で囁き続ける。

 それも、あの甘くて蕩けてしまいそうになる声で。



「ダメなものですか。この身体を私に捧げたのは、ヒヨリ。あなたですよ?」

「っ!」


 声をなくすヒヨリに、健はクスクスと笑う。

 その息がヒヨリの項にあたり、くすぐったいようで甘いようで。

 ヒヨリはどうにかなってしまいそうだ。


 健はハァと大きく息を吐き出し、恨みたっぷりの声で呟いた。






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