執事ちゃんの恋
「すぐに奪還して静岡に戻ってしまいたいところですが、なかなかそういうわけにはいかないようで」
「そ、そりゃぁそうでしょう。コウさまにお仕えする執事がいなくなっちゃうもの」
「ヒナタめ。見つけ出したら、八つ裂きにしてやりましょう」
「せ、せんせ。怖いから」
グッとヒヨリを抱きしめる腕に力を込める健。
密接する健の身体がより熱く感じて、ますます動揺する。
しかし、健の腕は力強く、なかなか抜け出すことはできない。
そんなヒヨリの困惑を間近で見ていた健はもう一度ヒヨリの項にキスをする。
「私も当分、こちらにいますから」
「へ!?」
健の言葉にヒヨリが思わず声をあげる。
悪戯が成功して喜ぶ子供のように、健はフフッと意味深に笑う。
「たっぷり可愛がってあげますから。ヒヨリ」
チュッとヒヨリの耳に唇を寄せる健に、これ以上悪戯されないようにと、ヒヨリは身体を反転させ健の顔を見上げた。
「あ、あのですね。私は今、ヒナタの身代わりで執事に、」
健が文月家の関係者だというのなら、これからヒヨリの近くに行くことは可能だ。
しかし、健が目の前をちらつけば、ヒナタの代わりとしてヒヨリが執事をすることは無理だろう。
健の声を聞いただけで、女のヒヨリに戻ってしまうのは予想ができるから。
そんなヒヨリの心配が伝わったのだろう。
健はゆったりと微笑んだ。
「わかっていますよ。ヒヨリの邪魔はしませんよ。大丈夫、安心なさい」
「……本当ですか?」
なんとなく健のいうことが信じられなくて、ヒヨリは念を押した。
そんな疑い深いヒヨリを見て、クスクスと笑いが止まらない健は、ヒヨリの頬にチュッとキスをする。
慌てて頬を押さえるヒヨリを見て、健はご満悦だ。